石川:とは言っても、これだけ価値観が多様化している時代に、お客様の状況や気持ちを想像するには限界があるとも思うのですが?
松山:100人しかいないところで、100人全員にものを売ろうとしたら大変でしょうね。でも弊社は2、3人でいいので、ある意味、恵まれているといえます。自分をお客様に投影し、自分がユーザーだったらという基本に立ち返って物作りができるからです。大企業は100人のうち50人、60人を意識して、最大公約数的な物作りをしなければならないので、想像力をもの凄く広げる必要があります。これは大変なことですし、自分をなくしてしまう可能性が高いでしょうね。
石川:それいゆと比べるのは失礼かもしれませんが、私共も最大公約数ではないものを会員の方に提供しようと考えています。会員を何万人くらいに増やしたほうが良いとアドバイスされることもあるのですが、少なくとも会員の方のお名前と顔が自分の頭の中に入っていて、セミナーでお会いしたときにその方のお名前をお呼びできる範囲にしておきたい。数ばかり多くて、どなたがいるのかわからないようなスタイルは、それいゆではないと思っています。
松山:言葉が適切ではないかも知れませんが、捨てる勇気が必要ということでしょうね。このお客様、この市場は自分たちが向かっている方向ではないと判断し、それを捨てることによって、進むべき方向が明確になるし、社員もついて来やすいと思います。会社はこの方向に進んでいるんだ、これは儲かってもやらないんだ、ということが明確になれば、企業としては強みになります。
「MARKS&WEB」の表参道ヒルズショップは、クリスマスシーズンを迎えるとギフト用に商品を購入されるお客様でレジが混雑してしまうのですが、そんな状況を見たある社員が、お客様をお待たせするのは申し訳ないから、あらかじめ包装済みのギフトセット商品を作ろうという提案をあげてきました。でも、私は反対したんです。お客様が自分の好きなものを選んだり、相手の好みを踏まえてプレゼントすることに楽しみを感じていただこう、それが「MARKS&WEB」の進む方向だからたとえ儲かるとしてもそれ以外のものは捨てよう、そして捨てなかったものは徹底的に追求しよう、と社員に話しました。
それいゆさんと一緒で、自分の意志で参加しているから、選んでいるから続くのであって、誰かから「これがお薦めセットです」って無理強いされたら続かないと思います。石川さんがナチュラルローソンで弊社の商品を見つけてくださったように、どこかでご縁があって、商品を手にとって良かったと感じてもらう、その時を待つ。そのスピードで会社の経営をしていきたいと思っています。
石川:今後の課題として捉えていらっしゃることが、何かおありですか?
松山:会社の規模をどのくらいまで広げていっていいのか、自分の器、能力として運営できる会社の規模はどのくらいなのだろうかと考えています。先ほどお話したような「個」と「個」の力が相乗的に働くような道筋を作ることができなくなるのであれば、それ以上は大きくしないほうがいいのではないかと思うからです。身の丈を知って、自分の限界をしっかりと悟ることは、人間にとって大事なことです。
現在は、私だけでなく社員のひとりひとりがお互いに何をやっているかを把握できています。それぞれの部門長が、他の部署の誰が何をやっていて、誰が元気がなくて、誰がどの商品に対してどんな思いを持っているのかをわかっているのです。それが把握しきれなくなった瞬間に、今までの絆がゆるんでいくのではないかと懸念しています。
でも、会社の規模に天井を設けることが社員にとって、また自分にとっていいのだろうかという気持ちもあります。もしかしたら挑戦することをやめてしまうのではないだろうか。どちらの道を選ぶのか、それが今後の課題です。
石川:5年後、10年後が楽しみですね。
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